実家を売りたい私と住みたい兄弟。現金の少ない相続で話し合いを進めるには?

実家を売りたい兄と住みたい姉妹が、家の模型と相続関係の書類を前に意見を対立させているイメージ。濃紺の背景に黄色と白の大きな文字で「実家を売りたい」「兄弟は住みたい」、下部に「現金の少ない相続、どう進める?」と記載した画像 実家の相続

親が亡くなり、主な遺産として実家が残った。預貯金は少なく、自分は売って現金で分けたいけれど、兄弟は住み続けたいと言っている。話し合っても同じやり取りになり、遺産分割協議が進まない――そんな悩みはありませんか。

不動産の営業の現場で伺ってきた相談にも、親が十分な現金を残していなかったことと、兄弟の住まいへの希望が重なり、実家の扱いを決められないケースがありました。

まず整理したいのは、「売る・住む」という希望、実家を取得する人がほかの相続人へ支払える資金、不動産の価額をどう考えるかの三つです。現金の少ない相続だからといって、直ちに売却しか選べなくなるわけではありません。ただし、住む人が実家を取得する案にも、支払いを含む具体的な条件の確認が必要です。

この記事では、遺産分割がまだ済んでいない場合を中心に、家族で書き出せる整理表と、話し合いが止まったときの相談先を紹介します。個別の権利関係や支払条件は、資料を持って専門家へ確認してください。

最初に、遺産分割が済んでいるかを確かめる

「兄弟で相続した」という言葉だけでは、実家の権利関係は分かりません。遺産分割前の遺産共有なのか、遺産分割で複数の相続人が共有して取得すると決まった後なのかによって、整理する手続きが異なります。

法定相続分に応じた相続登記をした後に、遺産分割が成立することもあります。登記があるからといって、遺産分割が済んでいるとは限りません。登記事項証明書に加え、遺言書の有無、遺産分割協議書、調停で取り決めた内容などを確認しましょう。

ほかの相続人や遺言がある場合は、兄弟二人だけの話し合いで進められるとは限りません。まず誰が関係者なのか、何が決まっていて何が未定なのかを確認します。

共有の実家全体を売るための同意や、共有持分・共有物分割の基本は、「相続した実家が兄弟の共有名義になったら売却できる?」で詳しく解説しています。この記事の整理表は、主に遺産分割前の話し合いに使うものです。

親の現金が少ないと、何が決めにくくなるのか

実家を取得する人と、現金を受け取る人の釣り合い

実家と十分な預貯金があれば、実家を取得する人と預貯金を取得する人に分ける方法を検討できます。ところが遺産の大部分が実家の場合、ほかの相続人へ渡す現金が遺産の中に足りないことがあります。

そこで候補になるのが、実家を取得する人が、ほかの相続人へ金銭などを支払う「代償分割」です。国税庁は、一部の相続人が現物を取得する代わりに、ほかの相続人に対して債務を負担する遺産分割の方法として説明しています。

親の預貯金が少ないことと、実家を取得する人自身に支払資金がないことは別の問題です。本人の預貯金などから支払えるのか、生活を維持しながら負担できるのかを確認して、実現可能な案に絞っていきます。

「実家はいくらか」の前提もそろえる

売りたい人は売却価格を、住みたい人は固定資産税の通知に書かれた評価額を見て話していると、金額の前提が食い違います。不動産会社の査定価格、固定資産税評価額、相続税の計算に用いる価額が、同じ金額になるとは限りません。どの資料のどの価額を比べているかを確認しましょう。

査定価格は、その価格で売れることを保証するものではありません。査定の根拠、建物の状態、境界や接道などの条件、売却にかかる費用も確認しましょう。「実家を売る不動産会社はどう選ぶ?」の質問項目も、査定の前提をそろえる参考になります。

代償金の額をどのように決めるかと、相続税をどのように計算するかは、分けて確認する必要があります。金額や権利の調整は弁護士、税務の扱いは税理士へ相談してください。

話し合いの前に、希望・資金・資料を書き出す

最初の話し合いで結論まで出そうとすると、互いの主張だけが強くなることがあります。先に下の表を埋めて、「分かっていること」と「まだ確認していないこと」を共有しましょう。金額が不明な欄は、無理に数字を入れず「未確認」として構いません。この表は決まった様式ではなく、話し合いを整理するための提案です。

確認項目 家族で書き出すこと 確認する資料・情報
相続と権利の状況 関係する相続人、遺言の有無、遺産分割で決まったこと 遺言書、登記事項証明書、遺産分割協議書など
住む人の希望 いつまで住みたいか、実家を取得したいか、住み替えも検討できるか 本人の希望、今後の住まいと生活の見通し
売りたい人の希望 現金が必要な理由、希望する時期、管理負担への不安 資金が必要な時期、家計や管理の事情
財産と負債 実家以外の遺産、預貯金、借入れなど 残高が分かる資料、借入れ関係の書類
実家の価額と費用 査定の前提、売却費用、手元に残る見込額 査定書、費用の見積り、税務の確認
代償金の支払い 用意できる資金、支払時期、生活への影響 本人が示せる資金の見通し、専門家への確認事項
当面の管理 税金、修繕、保険、連絡窓口、立替分の記録 納税通知書、請求書、保険証券など

実家の思い出を大切にしたい気持ちと、現金や管理負担の問題は、どちらも話し合いに必要です。「住みたい理由」と「売りたい理由」を確認すると、直ちに売却したいのか、一定の時期まで待つ余地があるのかなど、検討できる条件が見えてきます。

資金の話は個人の事情にも関わります。家族内で伝える範囲を相談し、必要に応じて専門家を交えて確認しましょう。

実家の扱いを決める案を、条件付きで比較する

住みたい人が取得し、ほかの相続人へ代償金を支払う

代償分割は、住みたい人が実家を取得し、ほかの相続人が金銭などを受け取る案です。検討するときは、取得する財産、代償金の額、資金の裏付け、支払時期などを具体的に確認します。

「住み続けたいから実家を取得する」「そのうち払う」という希望だけで合意を急がないことが大切です。分割払いなどを考える場合にも、支払いが続かなかった場合の扱いを含めて、合意する前に弁護士へ相談してください。借入れを前提にするなら、金融機関に融資の可否や条件を確認し、借りられるものとして話を進めないようにします。

ほかの相続人へ渡す金額が、必ず実家の査定価格に法定相続分を掛けた額になるとは限りません。ほかの遺産や遺言なども踏まえ、具体的な分け方を確認する必要があります。

実家を売却して、代金を分ける

実家を売却して金銭で分ける方法は「換価分割」と呼ばれます。話し合いによる売却を進めるには、関係者の合意を整える必要があります。住む人の転居先や退去時期、家財の整理、売却の条件、費用負担と代金の分け方も一緒に検討しましょう。

売却代金がそのまま全額手元に残るわけではありません。仲介手数料などの費用や、税金が生じる場合もあるため、手元に残る見込額で比較します。契約や登記の順序も、選ぶ遺産分割の方法に応じて専門家と確認してください。

準備する資料は、「相続した実家を売却する前に必要な準備とは?」も参考になります。売却だけを先に進め、分け方や転居の話を後回しにしないようにしましょう。

結論までの間、住まいと管理の取り決めを整理する

すぐに結論が出ないときも、現在の暮らしや家の管理は続きます。誰が何を支払い、立替分をどう記録し、いつ次に話し合うかを整理することで、費用をめぐる新たな対立を防ぎやすくなります。

ただし、住み続けることについて当面の取り決めをしただけで、遺産分割が完了したり、最終的な取得者が決まったりするわけではありません。居住の権利や費用負担に争いがある場合は、個別の事情を弁護士に確認してください。

「ひとまず共有名義にすれば解決する」とも限りません。共有で取得した後も、将来の売却、修繕、持分の相続などをめぐり調整が必要になることがあるため、共有にする案は将来の管理まで含めて検討します。

話し合いが進まないときの相談先

同じ主張を繰り返しているときは、何が決まらないのかを整理すると相談先を選びやすくなります。不動産の価格の見通しと、相続人同士の権利の調整では、確認する相手が異なります。

決まらないこと・確認したいこと 主な相談先
遺産の分け方、代償金の支払条件、居住や費用負担の争い 弁護士
相続登記、必要書類、登記手続きの進め方 司法書士
代償分割や売却に伴う税金 税理士
売却価格の見通し、査定の根拠、販売にかかる費用 宅建業の免許を持つ不動産会社

遺産の分け方について話し合いがまとまらない場合には、家庭裁判所の遺産分割調停や審判を利用する方法があります。裁判所は、調停で合意に至らなかった場合には審判手続きに移り、裁判官が事情を考慮して判断すると案内しています。

調停や審判に進めば希望どおりの売却になる、あるいは希望どおりに住めると決まっているわけではありません。どの手続きを検討するか、どの資料が必要かを弁護士に相談しましょう。

遺産分割が終わるまで、相続登記を放置してよいわけでもありません。相続登記の義務への対応は、話し合いの状況とは別に、法務局や司法書士へ確認してください。

よくある質問

親が現金を残していなければ、実家は売るしかありませんか?

直ちに売るしかないとはいえません。実家を取得する人がほかの相続人へ代償金を支払えるか、ほかの遺産も含めて分け方を考えられるかなどを確認します。ただし、支払いの見通しが立たない案を、希望だけで進めることは避けましょう。

兄弟が実家に住んでいると、売却について相談もできませんか?

売却の見通しや必要な準備について相談することと、実家全体の売却を実行することは分けて考えます。相談しただけで売却への同意が整うわけではありません。現在の権利関係、居住の事情、関係者の意向を確認して進めましょう。

話し合いでは、何を最初に決めればよいですか?

まず相続人、遺言、遺産分割の状況を確認し、希望と資金の見通しを書き出すところから始めます。そのうえで、査定などの資料を誰が集めるか、当面の管理をどうするか、次に話し合う時期を決めると、未確認の事項を減らしやすくなります。

家族の話し合いに向けて、状況を整理したい方へ

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本記事は、国税庁・裁判所・法務省などが公表している情報をもとに、一般的な考え方を整理したものです。個別の法的判断、代償金の額や支払条件の適否、税額の計算は行っておりません。

参考資料

確認日:2026年10月4日

国税庁「No.4173 代償分割が行われた場合の相続税の課税価格の計算」

裁判所「遺産分割調停」

法務省「相続登記の申請義務化に関するQ&A」

広島家庭裁判所「遺産分割ハンドブック」(遺産の分割方法)

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