親が介護施設などに入所し、実家に誰も住まなくなった。そんなとき、「このまま置いておいてよいのか」「早めに売ったほうがよいのか」と迷う方もいるのではないでしょうか。
実家が空いたからといって、すぐに売却を決める必要はありません。まずは親本人の希望と名義を確認し、当面の管理と費用を整理することが出発点になります。
この記事は、親本人が所有している実家を想定しています。名義が親以外の場合や、共有になっている場合は前提が変わります。
個別の法律判断や税務判断は行いません。家族で整理できることと、専門家へ確認したいことを分けて解説します。
まず確認したいのは親本人の希望と名義
親本人がどうしたいかを聞く
施設に入ったあとも、「いずれ家に戻りたい」「家はそのままにしておいてほしい」と考えている場合があります。
残す・貸す・売るのどれを選ぶにしても、まず本人の気持ちを聞くことから始めましょう。一度で結論を出そうとせず、何回かに分けて話すほうが進めやすいこともあります。
聞いておきたいのは、家に戻りたい気持ちがあるか、家の中に残しておきたい物があるか、今後のことを誰に相談したいか、といった点です。聞いた内容は、日付と一緒にメモしておきましょう。
登記名義を確認する
「親の家」と思っていても、登記上の名義が別の人のままだったり、共有になっていたりすることがあります。
登記上の名義は、登記事項証明書で確認しておきましょう。固定資産税の納税通知書も、納税や費用の状況を整理する参考資料になります。誰の名義かによって、このあとの進め方や相談先が変わります。
相続後に兄弟姉妹の共有となっている場合については、「相続した実家が兄弟の共有名義になったら売却できる?」で整理しています。本記事が想定する、親本人が所有している場合とは前提が異なります。
当面の管理体制を家族で決める
国土交通省は、当面は活用や除却ができない空き家についても、適切な管理が必要だと案内しています。
「どうするか決まるまで何もしない」のではなく、決まるまでの間の管理体制を先に整えておきましょう。家族で決めておきたいのは、次のような点です。
・主に誰が実家を見に行くか
・近隣や施設から連絡を受ける緊急連絡先
・鍵を誰が持ち、どこに保管するか
・見に行った日と、気づいたことの記録のしかた
一人に負担が偏ると、長く続けることが難しくなります。兄弟姉妹がいる場合は、役割と費用の分担も話し合っておくと安心です。
親本人の意向にも配慮し、必要に応じて信頼できる近隣の方と緊急連絡先を共有する方法もあります。
空き家の放置による影響を考える際は、「相続した空き家を放置するとどうなる?」も参考になります。相続後を想定した記事なので、相続手続きなどの説明は今回の場面と分けて読んでください。
無理のない範囲で点検する
実家を見に行ったときは、次のような点を確認しておくとよいでしょう。法律で一律に決められた項目ではなく、実務上の確認例です。
・換気や通水ができる状態か(設備の故障や漏水が疑われるときは、作業前に業者へ相談)
・天井や壁に雨漏りの跡がないか
・屋根や外壁に、地上から見てわかる異常がないか
・庭木や雑草が、隣地や道路にはみ出していないか
・郵便物がたまっていないか
・戸締まりに問題がないか
見に行く頻度は、建物の状態や距離によって異なります。無理なく続けられる範囲で決めてください。
屋根に上るなどの高所作業や、危険を伴う点検は避けましょう。家の中の家財には、親本人にとって大切な物が含まれます。本人の意向を確かめないまま処分することは控えてください。
遠方に住んでいるなど、自分たちで管理することが難しい場合について、国土交通省は管理業者や修繕業者の利用を検討するよう案内しています。作業の内容や費用は事業者によって異なるため、見積もりを取って確認しましょう。
かかる費用を実物の書類で把握する
固定資産税
名古屋市の案内では、固定資産税は、毎年1月1日時点で所有者として登記または登録されている人などが納税義務者になるとされています。
施設に入所した、空き家になったという理由だけで、課税がなくなるわけではありません。納税通知書が誰に届き、誰が支払っているのかを確認しておきましょう。
名古屋市以外にある実家については、所在地の市区町村へ確認してください。
保険・光熱費・管理や修繕の費用
火災保険については、保険証券を手元に用意し、住まなくなった場合の契約上の扱いや必要な手続きを保険会社や代理店へ確認しておきましょう。
電気や水道を続けるか止めるかは、通水や点検のしかたとも関わります。一律には決められないため、管理の方針とあわせて考えましょう。
金額は、納税通知書、保険証券、検針票や請求書、見積書といった実物の書類から拾ってください。年間でいくらかかっているかを書き出しておくと、今後を考える材料になります。
それぞれの費用を誰が負担しているのかも、あわせて記録しておきましょう。あとから家族の間で認識がずれることを防ぎやすくなります。
残す・貸す・売るを比べる
費用と管理の負担が見えてきたら、選択肢を並べて比べます。
・残す:親が戻る可能性や本人の希望に沿いやすい一方、管理と費用の負担が続きます。
・貸す:賃料収入が見込める場合がある一方、貸す前の修繕や、契約後の対応が必要になることがあります。
・売る:引き渡し後は実家を維持管理する負担から離れられますが、売却に伴う費用や税金の確認が必要です。手放した家をあとから元に戻せるとは限りません。
建物を解体して更地にする場合も、元に戻せない点は同じです。解体が必要か、古家を残して売る方法があるかも含め、費用や安全性を確認してから検討しましょう。解体前の比較については、「古家付き土地と更地、どちらで売るべき?」でも整理しています。
どれが正解かは、親本人の希望、建物の状態、家族の事情によって変わります。すぐに決められない場合は、「当面は残して管理する」と期限を区切って決めておく方法もあります。
将来、実家を相続した場合の選択肢は、「相続した実家はどうする?」で確認できます。親本人が所有している現在の判断と、相続後の判断は区別してください。
売却や賃貸の前に確認すること
契約する権限が誰にあるかを確かめる
売却や賃貸を進める前に、名義人が誰か、契約する権限が誰にあるのかを確認しておく必要があります。
「家族だから代わりに手続きできるはず」と思い込まず、弁護士や司法書士などの専門家へ、状況に応じた手続きを相談しましょう。白紙の委任状を用意する、本人の意思を確かめないまま話を進める、といった対応は避けてください。
親本人の判断能力や契約の進め方に不安がある場合は、家族や不動産会社だけで結論を出さず、医師や弁護士・司法書士などへ相談しましょう。
成年後見制度と家庭裁判所の許可
法務省の案内によると、成年後見制度には、判断能力の程度に応じて後見・保佐・補助の類型があり、本人の利益を守るための制度とされています。
裁判所の案内では、成年後見人などが本人に代わって居住用不動産を処分する場合、家庭裁判所の許可が必要とされています。居住用不動産には、施設へ入所する前に住んでいた家や、将来住む可能性のある家も含まれます。
ここでいう処分には、売却のほか、賃貸借契約の締結や解除、抵当権の設定、建物の取り壊しなども含まれます。保佐人や補助人については、不動産の処分について代理権が与えられている場合が対象として説明されています。
ただし、これは成年後見人などが本人に代わって処分する場合の話です。施設に入所した親すべてに家庭裁判所の許可が必要、という意味ではありません。
売却のためだけに使う制度ではない
裁判所の案内では、親族が必ず成年後見人などに選ばれるとは限らないとされています。
また、実家の売却という目的を果たしたからといって、家族の希望で自由に終了できる制度でもありません。原則として、本人の判断能力が回復するか、本人が亡くなるまで続きます。
売却だけを目的に利用を決めるのではなく、家庭裁判所や弁護士、司法書士へ相談したうえで検討してください。
相談前に整理しておきたいメモ
専門家へ相談する前に、次の内容を書き出しておくと、話が進めやすくなります。
・親本人の希望
・登記上の名義と持分
・現在の管理担当、鍵の保管、緊急連絡先
・年間でかかっている費用
・建物の状態で気になっている点
・家族それぞれの考え
・成年後見制度を利用しているかどうか
売却時の税金や特例の適用可否は、個別の事情によって異なります。税務署または税理士へ確認してください。
まとめ:急いで決めず、本人の希望と現状の整理から
親が施設に入って実家が空き家になっても、すぐに売却を決める必要はありません。
まずは親本人の希望と名義を確認し、管理の担当や緊急連絡先、鍵の扱いを家族で決めておきましょう。そのうえで、税金や保険、光熱費などの費用を実物の書類から把握し、残す・貸す・売るを比べていきます。
売却や賃貸を進める場合は、契約する権限が誰にあるのかを事前に確認することが大切です。
実家の今後について、まずは状況を整理したい方へ
まだ売ると決めていなくても、名義や管理の状況、かかっている費用を整理するところからご相談いただけます。
本記事は、国土交通省・裁判所・法務省・名古屋市が公表している情報をもとに、一般的な考え方を整理したものです。個別の法的判断、契約の可否、税額の計算は行っておりません。実際の手続きや判断にあたっては、弁護士・司法書士・税理士・家庭裁判所・市区町村など、内容に応じた窓口へ確認してください。
参考資料
確認日:2026年10月4日
・国土交通省「空き家の管理のやり方」
・裁判所「居住用不動産の処分についての許可」
・法務省「Q1~Q2 成年後見制度について」
・法務省「Q3~Q15 法定後見制度について」
・裁判所「成年後見制度の概要」
・名古屋市「固定資産税について」


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