親から実家を相続したものの、「売る・貸す・住む・残す」のどれにするかまだ決めていない、という方は少なくありません。
住む予定もなく、かといってすぐに売却する決心もつかず、結果として実家がそのまま空き家になっている、という状況は珍しいことではありません。
この記事は、「まだ売ると決めていないから、そのままでもいい」と考えている方に向けたものです。結論からお伝えすると、売却を急ぐ必要はありません。ただし、「何もしない」ことと「判断を保留しながら管理する」ことは、同じではありません。
この記事では、相続した空き家をそのまま放置した場合に考えられるリスクと、売る・貸す・住む・残すを決める前に最初にしておきたいことを整理します。個別の法律・税務判断は行わず、どこまでを自分で確認でき、どこから専門家や自治体へ相談すればよいかを中心に解説します。
相続した実家は、すぐ処分を決めなくてもいい
相続した実家について相談を受けていると、「早く決めなければ」と焦っている方によくお会いします。
しかし、売る・貸す・住む・残すのどれにするかを、相続してすぐに決められる方が実は少数派です。家族それぞれの考えが違う、実家への思い入れがある、そもそも実家の状態や名義がどうなっているか把握できていない、といった事情があれば、判断を急ぐ方が難しいものです。
判断を保留すること自体は、問題ではありません。問題になりやすいのは、判断を保留したまま、実家の状態や必要な手続きの確認も一緒に先延ばしにしてしまうことです。
まずは「今、実家がどういう状態にあるのか」「名義や相続人はどうなっているのか」を確認するところから始めても、遅くはありません。
相続した空き家を放置する5つのリスク
「放置」とひとことで言っても、実際には建物の劣化、周囲への影響、行政上の扱い、税金面の扱い、将来の手続きの複雑化など、いくつかの側面があります。ここでは、それぞれを分けて整理します。
建物や庭の劣化が進む
人が住まなくなった家は、住んでいる家に比べて劣化が進みやすいと言われています。
換気がされないことによる湿気やカビ、雨漏りに気づかないまま放置されること、庭木や雑草が伸び放題になることなどが、よく挙げられる例です。
ただし、劣化の進み方は建物の構造や築年数、立地、管理の有無によって大きく異なります。「空き家にした途端に急激に傷む」といった一律の話ではなく、あくまで「人が住んでいる場合に比べて、劣化に気づきにくく、進みやすい傾向がある」という理解にとどめておくのがよいでしょう。
周囲への影響が大きくなる
建物や庭の劣化が進むと、所有者本人だけでなく、近隣にも影響が及ぶことがあります。
例えば、建物の一部が破損して隣地に落下する危険、樹木の枝が越境する、害虫や動物が住み着く、景観が悪化するといった内容です。
こうした「周囲への影響」が一定の基準を超えると、後述する空家法(空家等対策の推進に関する特別措置法)にもとづく行政の対応対象になり得ます。2023年12月13日には、この空家法の改正法が施行されており、放置された空き家への対応の枠組みが強化されています。
管理不全空家等・特定空家等として行政対応の対象になる可能性
空家法には、「管理不全空家等」と「特定空家等」という2つの区分があります。この2つは意味も、行政の対応の重さも異なるため、混同しないことが大切です。
「管理不全空家等」は、適切な管理が行われていないことにより、そのまま放置すれば「特定空家等」に該当するおそれがある状態を指します。いわば、特定空家等になる一歩手前の段階です。
「特定空家等」は、倒壊などの保安上の危険がある、衛生上有害である、著しく景観を損なっている、その他周辺の生活環境の保全のために放置することが不適切である、といった状態を指します。
所有者または管理者には、自分の空き家を適切に管理するよう努める責務があるとされています。管理不全空家等に該当すると判断された場合、自治体から指導や勧告が行われることがあります。
ここで注意したいのは、管理不全空家等への指導・勧告と、特定空家等に対する命令・行政代執行は、別の区分・別の段階の措置だということです。命令や行政代執行は、より重い区分である特定空家等について、助言・指導や勧告を経てもなお改善されない場合に行われ得る措置であり、管理不全空家等の段階がそのまま命令・代執行に直結するものではありません。「勧告を受けた=すぐに強制撤去される」という話でもありません。
住宅用地特例から外れる可能性
空き家の放置に関連してよく話題になるのが、固定資産税です。
ここで正確に理解しておきたいのは、「空き家になっただけで、直ちに住宅用地特例が解除されるわけではない」という点です。空き家になったことそのものが、自動的に税額を変えるわけではありません。
一方で、固定資産税には「住宅用地特例」という仕組みがあり、小規模な住宅用地については、固定資産税の課税標準が本来の価格の6分の1になるといった軽減措置が設けられています。
管理不全空家等または特定空家等に該当し、必要な措置についての勧告を受けた土地については、この住宅用地特例の対象から除外され得るとされています。特例の対象から外れれば、その分だけ土地にかかる固定資産税の負担が増える可能性があります。
ただし、これは「勧告を受けた場合に特例の適用対象から外れ得る」という制度であり、「空き家にすると固定資産税が一律6倍になる」という話ではありません。実際の税額がどう変わるかは、土地の評価額や特例の適用状況などによって異なるため、個別の税額については税務署や自治体の固定資産税担当窓口へ確認することをおすすめします。
相続手続きや将来の売却が複雑になる
「放置」による影響は、建物や税金面だけではありません。時間が経つほど、相続手続きや将来の売却そのものが複雑になっていく、という側面もあります。
まず、相続登記は2024年4月1日から義務化されています。原則として、相続によって不動産を取得したことを知った日から3年以内に登記を申請する必要があります。遺産分割が成立した場合には、その成立日から別途の期限内に、それを踏まえた登記申請が必要になる点にも注意が必要です。2024年4月1日より前に発生した相続についても義務化の対象となり、経過措置の対象となる場合は原則として2027年3月31日までが一つの期限とされています。正当な理由なく義務に違反した場合には、10万円以下の過料の対象となり得るとされています。
なお、この相続登記に関する10万円以下の過料と、特定空家等への命令違反に関する50万円以下の過料は、根拠となる制度も金額も異なります。混同しないよう注意してください。
また、名義変更をしないまま次の相続が発生すると、相続人の数がさらに増え、話し合いが複雑になっていきます。将来的に売却する場合の取得費の計算に必要な、購入時の売買契約書や領収書といった資料も、時間が経つほど見つけにくくなる傾向があります。取得費の資料が見当たらない場合の考え方については、記事005「相続した実家の取得費がわからないときは?」で整理しています。
では、最初に何をすればいい?
ここまでのリスクを踏まえると、「今すぐ売る・貸すを決める」ことよりも先に、確認しておきたいことがいくつかあります。売却を決断する前の準備として、次の5つのステップで整理してみてください。
STEP1 登記簿上の所有者を確認
まず、実家の土地と建物、それぞれの登記簿上の所有者を確認します。亡くなった親の名義のままになっていないか、祖父母など以前の名義が残っていないかを、登記事項証明書などで確認しておきましょう。
STEP2 法定相続人を確認
次に、法定相続人が誰で、何人いるかを確認します。相続人が複数いる場合は、実家をどうするかについて、全員の認識をそろえておく必要があります。
STEP3 実家の現状を確認
実際に実家に足を運び、建物や庭の状態を確認します。雨漏りの有無、庭木や雑草の状態、近隣との境界などを確認しておくと、今後の管理方針を考えやすくなります。遠方に住んでいて頻繁に確認できない場合は、空き家の管理を代行するサービスの利用を検討する方法もあります。
STEP4 売買契約書・建築請負契約書・領収書等を探す
親が実家を購入・建築したときの売買契約書、建築請負契約書、購入代金の領収書などを探します。将来売却する場合の取得費の計算に関わる資料であり、早めに確認しておくと安心です。売却前の資料整理については、記事007「相続した実家を売却する前に必要な準備とは?」でも詳しく整理しています。
STEP5 当面の管理方法を決める
売る・貸す・住む・残すをまだ決めていなくても、当面どのように管理するかは決めておく必要があります。定期的に自分で見に行く、親族に依頼する、空き家管理サービスを利用するなど、無理のない方法を選んでおきましょう。
売る・貸す・住む・残すは、その後に決めればいい
STEP1からSTEP5までを整理できれば、それだけで「今すぐ売却する」という結論を出す必要はありません。むしろ、ここまで整理できていれば、後から売る・貸す・住む・残すのいずれを選んでも、スムーズに動き出せる状態になっています。
売る・貸す・住む・残すという4つの選択肢そのものについては、記事001「相続した実家はどうする?」で整理しています。実際に売却する流れについて知りたい場合は、記事002「相続した実家を売却するには?」もあわせてご覧ください。
名古屋市で空き家について相談したい場合
空き家についての相談先は、不動産会社だけではありません。名古屋市には、空き家に関する総合的な相談窓口が設けられており、管理方法や活用、解体などについて相談することができます。
また、名古屋市では、老朽化して危険な空き家の除却や、空き家の活用に関する補助制度が用意されている場合があります。ただし、対象となる条件や補助金額、受付状況などは変更されることがあるため、実際に利用を検討する際は、名古屋市の公式情報で最新の内容を確認してください。
「売却するかどうかまだ決めていないのに、不動産会社に相談していいのか」と迷う方もいますが、管理や制度に関する相談は、売却を前提としない段階でも可能です。まずは公的な相談窓口も含めて、状況を整理する相談先を探してみるとよいでしょう。
まとめ
相続した空き家について、今すぐ売却を決断する必要はありません。売る・貸す・住む・残すのどれにするかは、実家の状態や家族の状況を踏まえて、時間をかけて決めても大丈夫です。
ただし、「決めていないこと」と「何もしないこと」は分けて考える必要があります。放置を続けると、建物や庭の劣化、周囲への影響、管理不全空家等・特定空家等としての行政対応の可能性、住宅用地特例から外れる可能性、相続手続きや将来の売却の複雑化といったリスクが積み重なっていきます。
大切なのは、売却を決断することそのものではなく、放置ではなく管理しながら、登記名義や相続人、資料の整理を先送りにしないことです。まずは登記簿上の所有者、法定相続人、実家の現状、必要書類、当面の管理方法という5つのステップから、確認を始めてみてください。
空き家をどう管理すればいいか、整理したい方へ
売却を決めていなくても、まずは実家の状況や、何から整理すればよいかを確認するところからご相談いただけます。登記や相続、税務に関する個別の判断については、司法書士・税理士など、それぞれの専門家、または自治体の窓口へご確認ください。
本記事は、空家等対策の推進に関する特別措置法や関連する制度をもとに、相続した空き家を放置した場合の一般的なリスクについて整理したものです。個別の行政対応の要否、税額の計算、登記手続きの要否についての判断は行っておりません。実際の手続きや制度の適用については、自治体の窓口、司法書士、税理士など、内容に応じた専門家へ確認してください。


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