実家を相続したものの、建物がかなり古く、「更地にしてから売った方がいいのか」「古家付きのまま売り出した方がいいのか」で迷う方は少なくありません。
不動産会社に相談すると、「更地の方が売れやすいですよ」と言われることもあれば、「古家付きのままでも大丈夫です」と言われることもあり、どちらを信じればいいのか分からなくなることもあります。
結論から言うと、古家付きと更地のどちらが正解かは、物件・地域・買主層・建物の状態によって変わるため、一律には決められません。
一方で、一つだけはっきりしていることがあります。それは、解体してしまうと、その後で「やっぱり古家付きのまま売ればよかった」と思っても元には戻せないということです。
古家が残っている間は、古家付き売却と更地売却の両方を比較できます。しかし解体した後は、更地売却しか選べません。
そのため、この記事では「解体するべきか」を先に決めるのではなく、査定・売却条件・解体費・税金・売却時期を整理してから判断する、という進め方を整理します。
なお、比較や検討そのものを先送りにして、古家をそのまま放置してしまうと、また別のリスクが生じます。相続した空き家を放置するとどうなる?については記事009で整理していますので、あわせてご確認ください。
古家付き土地のまま売るメリット
古家付きのまま売却する場合、次のようなメリットが考えられます。
解体費を先に負担しなくてよい
古家付きのまま売却すれば、売主が先に解体費用を支払う必要がありません。解体費用は建物の規模や構造、立地条件によって変わり、まとまった金額になることもあります。先に大きな支出をせずに売却活動を始められる点は、古家付き売却の分かりやすいメリットです。
固定資産税等の住宅用地特例を維持できる可能性がある
土地の上に一定の住宅が建っている場合、固定資産税・都市計画税には「住宅用地の特例」があります。小規模住宅用地では固定資産税の課税標準が本来の6分の1、都市計画税の課税標準が3分の1となる特例があり、一般の住宅用地でも固定資産税は3分の1、都市計画税は3分の2となります。この特例は、毎年1月1日時点で住宅が建っているかどうかを基準に判定されます。
そのため、年内に建物を解体してしまい、翌年1月1日の時点で住宅が存在しない状態になると、原則としてこの住宅用地特例の対象から外れることになります。古家付きのまま所有・売却している間は、この特例の対象を維持できる可能性があります。
ただし、小規模住宅用地の特例が外れると、土地の固定資産税の課税標準が本来の水準に戻るため税負担が増える可能性がある、という意味であり、実際の税額が一律6倍になるという意味ではありません。税額は土地の評価額や税率、他の減額措置の有無などによっても変わるため、具体的な税額については市区町村の資産税課などにご確認ください。
建物を使いたい買主にも検討してもらえる可能性がある
建物の状態によっては、リフォームして住みたい、あるいは賃貸や店舗として活用したいと考える買主が検討してくれる可能性があります。これはあくまで実務上の可能性であり、すべての古家に当てはまるわけではありません。建物の傷み具合や間取り、周辺の需要によって、建物に価値を感じる買主がいるかどうかは変わります。
古家付き土地のまま売るときの注意点
一方で、古家付きのまま売却する場合には、次のような注意点もあります。
建物状態によって買主の検討対象が狭くなることがある
雨漏りやシロアリ被害、傾きなど建物の傷みが大きい場合、住宅としての利用を前提とする買主にとっては検討しづらくなることがあります。建物の状態は、物件ごとに現地で確認する必要があります。
買主が解体費を見込んで価格を検討することがある
古家付きのまま購入した買主が、購入後に自分で解体して土地として利用する場合、買主側は購入価格に加えて解体費用も負担することになります。そのため、買主が提示する価格の検討材料として、解体費用相当額が意識されることがあります。この点は物件や買主の考え方によって差があります。
契約条件・建物の扱いを整理する必要がある
古家付きで売却する場合、建物を「現状有姿」で引き渡すのか、設備の保証をどう扱うのか、残置物をどちらが処分するのかなど、契約条件を整理しておく必要があります。建物がある分、更地売買に比べて契約条件の項目が増える傾向があります。
更地にして売るメリット
建物を解体してから売却する場合には、次のようなメリットが考えられます。
土地の形状や利用イメージが分かりやすくなる
建物がなくなることで、土地の形状や広さ、接道状況などを買主が把握しやすくなります。建築を検討する買主にとっては、建物がない状態の方が利用イメージを描きやすい場合があります。
買主側で解体する手間がなくなる
更地であれば、買主が購入後に解体工事を発注する手間や、解体中の近隣対応などを負担する必要がありません。買主にとって、購入後すぐに次の計画へ進みやすいという実務上の傾向はあります。
新築目的の買主が検討しやすくなる可能性
新築を目的とする買主にとっては、更地の方が検討しやすい傾向があるとされることがあります。ただし、これは物件・地域・買主層によって差があり、「更地なら必ず売れやすい」「必ず高く売れる」と一律に言えるものではありません。
更地にしてから売るときの注意点
更地にしてから売却する場合には、次のような注意点があります。
解体費用を先に負担する
更地にする場合、売主が先に解体費用を負担することになります。建物の構造や規模、アスベストの有無、地中埋設物の可能性などによって、解体費用は変わります。売却できるかどうかが確定する前に費用が発生する点は、更地売却の負担の一つです。
1月1日をまたぐと住宅用地特例から外れる可能性
前述のとおり、固定資産税・都市計画税の住宅用地特例は、毎年1月1日時点の状況で判定されます。年内に解体して翌年1月1日を更地の状態で迎えると、その年から住宅用地特例の対象外となり、土地の税負担が増える可能性があります。売却がすぐに決まらず更地のまま所有する期間が長くなる場合、この点は事前に確認しておきたいポイントです。
解体しても希望価格で売れる保証はない
更地にしたからといって、必ず希望する価格や期間で売れるとは限りません。周辺の土地相場や需要、土地の形状・接道条件などによって、売却価格や売却までの期間は変わります。解体はあくまで売却活動の一つの選択肢であり、解体そのものが価格や早期売却を保証するものではありません。
解体費用は売却時の経費にできる?
実家を売却する際にそもそもどのような税金がかかるのか、譲渡所得の基本的な仕組みについては、相続した実家を売却すると税金はどうなる?(記事004)で整理しています。ここでは、その中でも古家付き・更地の判断に関わりやすい、解体費用の扱いについて確認します。
相続した実家を解体して土地を売却する場合、「解体費用は税金の計算上、経費として差し引けるのか」という点も気になるところです。
国税庁が示す情報(No.3255)では、土地を売却するためにその土地の上にある建物を取り壊した場合の取壊し費用や、建物の一定の損失額は、譲渡費用に該当し得るとされています。譲渡費用は、譲渡所得を計算する際に譲渡価額から差し引くことができる費用です。
ただし、どのような解体費用でも自動的に譲渡費用になるわけではありません。例えば、土地を利用する目的で建物付きの土地を取得し、取得後おおむね1年以内に建物を取り壊すような場合などには、取壊し費用が譲渡費用ではなく取得費として扱われることがあるとされています。
そのため、「解体費は全部譲渡費用になる」と単純に判断せず、いつ、どのような目的で取得した建物を、どのような経緯で取り壊したのかによって取扱いが異なり得る、という点を踏まえておく必要があります。実際にどちらに該当するかという個別の判断は、税務署または税理士へご確認ください。
譲渡費用に含まれ得る費用の範囲や、仲介手数料・測量費などとの関係については、相続した実家を売却したときの譲渡費用とは?(記事006)でも整理しています。あわせてご確認ください。
相続した実家なら3,000万円特別控除も確認
相続した実家が一定の要件を満たす場合、「被相続人の居住用財産(空き家)に係る譲渡所得の特別控除の特例」、いわゆる相続空き家の3,000万円特別控除を利用できる可能性があります。
この特例は、建物を取り壊して土地として売却する方式でも、要件を満たせば適用できるとされています。ただし、「解体すれば自動的に3,000万円控除が使える」という制度ではありません。取り壊して売却する場合には、主に次のような要件が挙げられています。
・相続してから取り壊しまでの間、その家屋を事業・貸付・居住のいずれにも使用していないこと
・敷地についても、相続してから譲渡するまでの間、事業・貸付・居住のいずれにも使用していないこと
・取り壊してから譲渡するまでの間、その敷地を建物または構築物の敷地として利用していないこと
・売却時期に関する期限の要件
・譲渡価額に関する1億円以下の要件
このほかにも細かな条件があるため、自分の実家が対象になりそうかどうかは、相続空き家の3,000万円特別控除とは?もあわせてご確認ください。
なお、建物を解体せずに残した状態で売却する場合についても、家屋が一定の耐震基準を満たす方式や、2024年1月1日以後の譲渡について、買主側が一定の期限までに耐震改修または建物の取り壊しを行うことで特例の対象となる方式が用意されています。そのため、「3,000万円控除を使うなら、売主が売却前に必ず解体しなければならない」というものでもありません。
解体する前に確認したい7つのこと
古家付きのまま売るか、更地にして売るかを決める前に、次の7つを確認しておくことをおすすめします。
建物に利用価値が残っているか
雨漏りやシロアリ被害の有無、構造の傷み具合、間取りやリフォーム歴などを確認します。建物に一定の価値が残っていれば、古家付きのまま検討する買主がいる可能性があります。
古家付きと更地の両方で査定する
古家付きの状態での想定査定額と、更地にした場合の想定査定額の両方を、不動産会社に確認しておきます。片方だけで判断すると、比較材料が不足します。
解体費の見積もりを取る
建物の構造・規模・立地条件によって解体費用は変わります。複数の解体業者から見積もりを取っておくと、更地にした場合の実質的な手取り額を計算しやすくなります。なお、自治体によっては老朽化した危険な空き家の除却費用を補助する制度が用意されている場合がありますが、対象となる建物や危険度の判定基準、補助金額、受付状況は自治体や時期によって異なります。一般的な古家の解体すべてが対象になるわけではないため、利用を検討する場合は、物件所在地の自治体の最新の公式情報をご確認ください(名古屋市内の場合は、名古屋市の老朽危険空家等除却費補助金に関する案内が対象になり得ます)。
固定資産税等の影響を確認する
解体によって住宅用地特例の対象から外れる可能性があるかどうか、外れた場合に土地の税負担がどの程度変わりそうかを確認します。具体的な税額は市区町村の資産税課などにご確認ください。
相続空き家3,000万円控除の対象可能性を確認する
取り壊して売却する方式・建物を残して売却する方式のどちらでも、要件を満たせば特例の対象となる可能性があります。自分の実家がどちらの方式で対象になりそうか、あわせて確認しておきましょう。
境界・越境・地中物等を確認する
土地の境界が確定しているか、隣地との越境がないか、解体時に地中埋設物が見つかる可能性がないかを確認します。これらは解体費用や売却条件に影響することがあります。
売却時期と解体時期を比較する
解体してから売り出すのか、売り出しながら解体を検討するのかによって、住宅用地特例の適用期間や、買主が見つかるまでの期間の使い方が変わります。売却活動全体のスケジュールの中で、解体のタイミングを検討します。
判断に迷ったら「解体前」に比較する
ここまで整理してきたとおり、古家付きと更地のどちらが正解かは、物件・地域・買主層・建物の状態によって異なり、一律の答えはありません。
そのため、判断に迷う場合は、解体工事を契約する前に、次の項目を並べて比較することをおすすめします。
・古家付きの状態での想定査定額
・更地にした場合の想定査定額
・解体費用の見積額
・固定資産税等の住宅用地特例への影響を含めた税務面の確認事項
・それぞれの方法で売却するまでにかかりそうな期間
解体工事を契約してしまうと、その後で「やはり古家付きのまま売ればよかった」と思っても元には戻せません。一方、古家が残っている間であれば、両方の選択肢を比較しながら判断できます。迷った場合ほど、解体を急がず、先に比較することが大切です。
古家付きと更地のどちらで進めるかを決めたら、次は実際の売却に向けた準備です。登記名義や必要書類の確認など、売却前に整理しておきたいポイントについては、相続した実家を売却する前に必要な準備とは?(記事007)で整理しています。
まとめ
古家付き土地と更地、どちらで売るべきかは、「どちらか一方が必ず正解」という二択の問題ではありません。
固定資産税等の住宅用地特例、譲渡費用としての解体費の扱い、相続空き家の3,000万円特別控除など、確認しておきたい制度はいくつかありますが、いずれも要件や条件によって適用可否が変わるものであり、「解体すれば税金が必ず増える」「解体すれば控除が必ず使える」といった単純な話ではありません。
大切なのは、解体するかどうかを先に決めてしまうのではなく、解体工事を契約する前に、古家付き査定額・更地想定査定額・解体見積額・税務面・売却までの期間を並べて比較し、そのうえで判断することです。
古家を解体する前に、古家付きのまま売る場合と、更地にする場合の条件を整理したい方へ
「解体した方がいいのか、このまま売った方がいいのか分からない」という段階でも、ご相談いただけます。査定を前提としたご相談だけでなく、解体するかどうか迷っている段階での状況整理としてもご利用いただけます。個別の税額計算や特例の適用可否については、税務署または税理士へご確認ください。
本記事は、国税庁等が公表している情報をもとに、不動産売却に関する税制度を一般的に解説したものです。個別の税務判断や税額計算については、税務署または税理士へご確認ください。


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